2025年3月4日~ 『XデーⅡ~本格的リハビリ始動』
二回目の『Xデー』は、本来なら後遺症がほぼ消えるとされる術後半年後――4月 1日の予定だった。
しかし待ちきれず、ひと月早い 3月4日から始めてしまった。完全なるフライングだが、“リハビリ”との直接対決を、もう我慢できなかったのだ。
これまでも、ピアノをゆっくりと弾きながら模索を続けてはいたが、今日から「本格的に」腰を据えて取り組む決意を新たにした。
3月4日~『ノンレガート スケール』
最初に挑んだのは『スケール(音階)』、しかも『ノンレガート』での練習だ。
右手が、まるで鍵盤の位置を忘れてしまったかのような動きをする――以前にも書いたが、その違和感はいまだに消えていなかった。
ピアノ演奏における手の移動は、基本的に“横移動”だ。その際にもっとも頼りにするのが親指だ。
親指は他の指と比べて格段に可動域が広く、付け根の位置も独特だ。物を掴むのにも不可欠で、普段なら重宝すべき指のはずが、今はまるで“わからず屋”の代表格になってしまっている。
スケールを弾くとき――右手の上行形では、親指は手のひらの下をくぐり、姿を隠しながら次の鍵盤を打鍵する。
以前なら何の迷いもなくできていたその動作が、今は不確実になってしまったのだ。
術後まもない頃はさらにひどかった。
親指が狙った鍵盤に届かないどころか、感覚そのものが以前とまるで違っていた。頭と目では場所を理解しているのに、親指は思いもよらない鍵盤へ突っ込んでしまう。
普通ならイライラして当然――まさに絶好のストレス場面だ。だが、そうは問屋が卸さない。ここで感情に飲み込まれたら、それこそ敗北である。私は自分自身に「負けるものか」と言い聞かせ、絶対に音を外さないくらい遅く、確実なテンポで練習を重ねた。
結局のところ、練習とは気分よく進めてこそ上達できるものだ。
術後当初に比べれば、今はほんの一ミリでも前進しているはずだ。
今日から始めたスケールの練習は、メトロノームを 80に設定し、ノンレガートで一音ずつ打鍵しては離すという弾き方だ。その際、離鍵のスピードも打鍵と同じように保つ。
具体的には、スケールの「ド」を四分音符=80で弾くとすれば、離鍵はその半分、すなわち♪=160の八分休符の長さで離す、ということになる。それをすべての調で続けて弾いた。
ちなみに、『80』といっても、スケール一音につきの速さになる。ピアノをやっている人にはこれだけで、眠たくなるような速さかおわかりになるだろう。
弾く順番は、昔から馴染みのある『HANON(教則本)』に従った。C dur(ハ長調)~a moll(イ短調)~F dur(ヘ長調)~d moll(ニ短調)~B dur(変ロ長調)~…という具合に全部の調を。
実際やってみると、親指だけでなく、他の指の動きもよく観察できた。
親指がボケているのはもちろんだが、他の指も心なしか自分の意志とはズレて動いている。その一つひとつを、ジロジロと観察しながら確かめていった。
また、スケールの最後には『カデンツ(終止)』があり、一律に書かれた和音を弾く。だが次の調へ途切れなく移るために、次の調のドミナントセブン(属七)を付け足して弾く。和音を弾く瞬間も、以前との違和感を探りながら確認していった。
特に気付いたのは、右手が以前より即座に広げにくいこと。
そこで、本来小指で弾くところを薬指に替えて打鍵し、指の広がりを計った。このとき黒鍵を押さえる際、薬指が落ちやすいことも判明。手のひらの位置が以前より下がっているのかもしれないと考え、手首の高さの調節も意識しながら弾いた。
もはや音楽とはかけ離れた作業だが、それでも没頭して取り組んだ。
3月27日~『過去に自分で作った、指のメカニック体操』
ノンレガートスケールは今も実践していて、メトロノーム 80の動きに納得したら、次は 81というように緩やかにテンポを上げていった。
それだけでは物足りず、ジストニア発症中も工夫を重ねていた『指のメカニック体操』を再び取り入れることにした。
あの頃は単なる指の独立練習だったが、今は“神経との再交信”を目的とした再教育として見直している。
具体的に説明してみると――
※YouTubeチャンネルにも載せているので参考にしてください
~『指のメカニック体操』※指の呼び名は数字で(親指→1指、人差し指→2指のように)
レッスン 1 ~ 【5指を固定し、指 1本ずつの独立性を高めるための基礎体操】
①:両手を 2オクターブ離して、ドレミファソのポジションにべちゃっと押さえつける
鍵盤を押さえたまま“つまむ”動きで手前に持って来る(手の第 3関節が盛り上がるはず)
次に指先に負荷を感じながら、それぞれの関節をほんの少しだけ曲げる(または丸める)
Point! この時に 10本の指、または鍵盤が浮かない事
メトロノームを必ずつける
Point! 私は 80から始めたが、速いと感じたらもっと遅くする。決して速くしない
メトロノーム 80を 1 カウントとして、1本の指で 4 カウント数える
~実践~
1 カウント…打鍵
Point! 手首や腕の反動をつけない。あくまで“指”に集中する
2.3 カウント…指を支えているところ(負荷がかかっている)を意識する
4 カウント…離鍵
Point! この時に指を出来るだけ高く上げる。打鍵するときの反対の筋をストレッチするつもりで
これを 1指から順に 5指まで弾いて、5指まで弾いたら 4指から 1指へと帰る
②:状態は①と変わらないが、動かす指の順番を変える
1 を 4 カウント弾いたら、次は 2 も 4 カウント。この『1 と 2』をセットとする
このセットを 4回繰り返す
弾いていく順番 ~ 『1・2』 『3・2』 『3・4』 『5・4』 『3・4』 『3・2』 『1・2』
③:これも①と②と注意することは同じ
弾いていく順番が変わる(3度の動き)
これも一つのセットを 4回繰り返す
弾いていく順番 ~ 『1・3 』『2・4』 『3・5 』『4・2』 『3・1』
レッスン 2 ~ 【指 1本を支点とし、他の指のペア運動を再教育する体操】
ポジションはレッスン 1 と同じ
メトロノームも 80から始める(この時も速いと感じたらさらに遅くする)
~実践~
①『1指』を押さえたまま…『3・5』を同時に弾き、続いて『2・4』を弾く ← これを 1セットとする
これを 8セット繰り返す
②『5指』を残す…セットは『1・3』『2・4』
これも 8回繰り返す
③『4指』を残す…セットは『1・3』『2・5』
④『3指』…『1・4』『2・5』
⑤『2指』…『1・4』『3・5』
Point! この体操は少し難しいので、最初は片手ずつで練習し、音をつなげず一回『3・5』を弾いたら切って、次の『2・4』を押さえる。というところから、徐々につなげてから両手で弾けるように進めていくと良い。
レッスン 3 ~ 【指 2本を支点に、残り 3本を個々に動かすことで、指の独立性と支点感覚を鍛える体操】
ポジションも速さも上記と同じ
~実践~
Point! これも『レッスン 2』同様に、難しかったら片手ずつゆっくりと練習を進めたらよい。
レッスン 4 ~ 【一つの手で 2声を弾き分け、固定指と可動指を分離することで多声制御を再構築する体操】
レッスン 5 ~ 【親指の通過と手の重心移動を整え、スケール全調への自然な連携を取り戻す体操】
ポジションは今までと同じ
速さも同じ 80で
~実践①~
ノンレガートで全調を弾く
上記『3月4日』の項目で記した方法で
メトロノームは 1音につき『80』で
~実践②~
普通にレガートで弾く
速さは①の 2倍のテンポ、2音=80で(♪=80)
ただし、全調を途切れさせたくないので、各調性の変わり目に音を足す。例えば…
C durから a mollに移るときカデンツを引かずに、最後に『ドレドシ』を足す。
この時の指使いは任意とする。
次は a mollから F durになるが、その場合次の調性に従う。つまり…
『ラシ♭ラソ』となる。それ以降も同様に。
以上の練習を、この日から本格的に始めた。
この日の所要時間は 2時間を超え、それぞれの指との対話はこれまでになく密接なものになった。
終わりの見えない作業――だが、手ごたえがあったかと問われれば、正直まだわからない。
それでも自分と指を信じて、11月 29日に向けて歩み出した。










